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長崎地方裁判所 昭和32年(ワ)87号 判決 1957年12月26日

原告 福宝商事有限会社

右代表者 福田吉満

被告 長門漁業株式会社

右代表者 上田金作

右代理人弁護士 山中伊佐男

主文

一、被告は、原告に対し、金二十七万六千円及び之に対する昭和三十二年二月二十一日からその支払済に至るまでの年六分の割合による金員を支払はなければならない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、

主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、被告が、昭和三十一年十一月二十四日、訴外長崎水産興業株式会社に対し、振出し、同訴外会社が、原告に対し、同月二十六日(訴状に二十七日とあるは二十六日の誤記と認める)裏書譲渡した、額面金二十七万六千円、支払期日昭和三十二年二月二十日、支払地、振出地、共に長崎市、支払場所株式会社十八銀行北支店なる約束手形一通(以下、本件手形と言ふ)の所持人である。

二、原告は、右手形を、その支払期日に、その支払場所に於て、呈示し、その支払を求めたところ、之を拒絶された。

三、仍て振出人たる被告に対し、右手形金及び之に対する支払期日の翌日たる昭和三十二年二月二十一日からその支払済に至るまでの手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める為め、本訴請求に及んだ次第である。

と述べ、

被告の主張に対し、

一、本件手形は、その所持人たる原告に対する関係に於ては、裏書の連続を欠くから、原告は、その適法の所持人でない旨の被告の主張は、之を否認する。

二、原告が、被告主張の事実を知つて、本件手形を取得した悪意の取得者である旨の被告の主張は、之を否認する。

と答え、

立証として、

甲第一号証を提出し、

原告代表者尋問の結果を援用し、

乙第一号証の成立は不知と述べた。

被告は、

原告の請求を棄却する旨の判決を求め、

答弁として、

一、被告が、本件手形を振出したこと、及び原告が、現に、その所持人であることは、之を認める。

二、併しながら、原告が、本件手形の裏書譲渡を受けたことは之を争う。

三、仮に、原告が、本件手形の裏書譲渡を受けたことがあるとしても、原告が、右手形の適法の所持人であることは、之を争う。本件手形上、現在の権利者は、訴外福田吉満であつて、原告ではないから、その現在の所持人たる原告に対する関係に於ては裏書の連続を欠いて居る。従つて、原告は、右手形の適法の所持人ではないから、その手形上の権利を行使することは出来ない。

四、仮に、原告が、本件手形の適法の所持人であるとしても、本件手形は、訴外長崎水産興業株式会社振出の約束手形と交換に振出されたものであつて、右両名は、互に、一方の手形の支払あることを条件として、その支払の義務を負う旨特約したものであるところ、右訴外会社は、その振出の右手形の支払をしなかつたのであるから被告には本件手形の支払を為すべき義務のないものであり、又本件手形は、裏書禁止の為されて居る手形であつて、原告は、これ等の事実を知りながら、本件手形の裏書譲渡を受けたのであるから、その悪意の取得者である。故に、被告は原告に対し、本件手形の支払を為すべき義務はない。

五、仮に、右主張が、理由がないとすれば、原告が、本件手形の支払期日に、適法に、その支払の為めの呈示を為したことは、之を争う。

六、以上の次第であるから、原告の本訴請求は、失当である。故に原告の請求を棄却する旨の判決を求める次第である。

と述べ、

立証として、

乙第一号証を提出し、

証人若山春生の証言を援用し、

甲第一号証振出部分のみの成立を認め、その余の部分の成立は不知と答へ、同号証(但し裏書部分)を答弁第二項に関する証拠として利益に援用した。

理由

一、被告が、本件手形を振出したことは、当事者間に争のないところである。

二、而して、原告が、本件手形を、その主張の日に、裏書譲渡を受けたことは、振出部分について当事者間に争がなく、その余の部分について、原告代表者尋問の結果によつて、その成立を認め得る甲第一号証と原告代表者尋問の結果とを綜合して、之を肯認することが出来るから、(この認定を動かするに足りる証拠は、存在しない)、原告は之によつて右手形上の権利を取得したものであると言はざるを得ないのであつて、而も、原告が、現に、之を所持して居ることは、当事者間に争のないところであるから、原告が右手形の適法の所持人であることは、多言を要しないところである。従つて、原告が、本件手形の振出人たる被告に対し、その手形上の権利を行使し得ることは、論を俟たないところである。

三、被告は、本件手形上の現在の権利者は、訴外福田吉満であつて、原告ではないから、その現在の所持人たる原告に対する関係に於ては、その裏書の連続を欠くものであり、従つて、原告は、本件手形の適法の所持人ではないから、その手形上の権利を行使することは出来ない旨主張し、本件手形たる甲第一号証の裏書部分の記載によれば、その裏書部分に、形式上は、被告の右主張に符合する裏書の為されて居ることが明かであるが、原告代表者尋問の結果によると、右手形の第一裏書は、原告の為めに、本件手形の権利者たる訴外長崎水産興業株式会社が、白地裏書の形式を以て、之を為し、因つて、以て原告に、右手形を譲渡交付し、原告が、その所持人となつて現在に至つて居るものであるところ、原告の預金口座は、その代表者たる訴外福田吉満の個人名義で設けられて居り、その為めに、右手形金を、右口座に振込む為め、便宜上、訴外福田吉満名義を以て、その預金銀行たる訴外株式会社親和銀行に対し、取立委任裏書(第二裏書)を為したものであることが認められるので、(この認定を左右するに足りる証拠は全然ない)、本件手形の実質上の権利者が、原告であることに変りのないことが明かであるところ、手形の所持人が、その実質上の権利者であることを証明すれば、その手形上の権利を行使し得ることは勿論であるから、本件手形の裏書部分に、形式上、前記の様な裏書が為されて居ても、その所持人たる原告に於て、その実質上の権利者であることを証明した以上、原告は、本件手形の権利者として、その手形上の権利を行使し得るものと言はなければならない。故に、本件手形に前記裏書のあることを理由として為された被告の右主張は、理由がないから、之を排斥する。

四、更に、被告は、原告が、本件手形の悪意の取得者である旨主張するのであるが、仮に、その主張の様な事実が存在するとしても、その事実を、原告に於て、了知して居たと言ふ点について、何等の証拠もないのであるから、原告が、その事実を知つて、本件手形を取得したと言ふ事実は、之を認め得ない。故に、原告が、その事実を了知して居たことを前提とする被告の右主張は、理由がないから、右主張も亦、之を排斥する。

五、而して、原告が、本件手形の支払期日に、適法に、その支払の為めの呈示を為したこと、及びその支払が拒絶されたことは、原告代表者尋問の結果及び之によつて成立を認め得る甲第一号証(但し、付の部分)によつて、之を認定することが出来るから、(この認定を動かすに足りる証拠はない)、原告は、振出人たる被告に対し、本件手形金及び之に対する支払期日以降の法定利息金の支払を求める権利を有する。故に、右権利に基いて為された原告の本訴請求は、正当である。

六、仍て、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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